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まだ明け切らないうちに目が覚めた。
立ち上がり、ついたままの蛍光灯の紐を掴もうとして肌蹴た浴衣が見えた。
帯を解いて整えてから座椅子に移動し、タバコに火をつける。
数回吹かしてくわえたままガラスの灰皿を持ち、電気を消してから障子の向こう側にある籐の椅子に腰をかけた。
ガラスのテーブルに灰皿を置いて、口元のタバコを吸う。暗闇の中に先だけが光る。
それだけで人は安心するものだ。
いつ消えてしまうかもわからない小さな灯りが人の心を癒す。
それと同時にその灯りは一縷の望みをも照らし、消えた瞬間に人々を絶望へと突き落とす。
夜が明けたところで今日という一日に何を期待しろと言うのか。
明るくなり始めた空を睨みながら、しばらく手元のタバコを吹かしていた。
その後、一風呂浴び、十時には一旦宿を出て目的もなくブラブラと歩き始めた。
台風は過ぎ去り、雲一つない空には夏らしい太陽が煌々と輝く。
汗ばむ陽気に紺色ワイシャツのボタンを外して前を開ける。
中の黒い半袖シャツの裾を出して風が入るよう数回揺らした。
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