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「老衰だってよ………」
「もともと心臓も悪かったらしいしな」
「甥と姪に看取られたんなら……じいさんも本望だろう」
葬祭場では否応なく参列者の噂話が耳に入った。
「じいさんの遺産ってどうなるんだ………」
「総資産一億以上らしいぞ」
「でもじいさんのとこは嫁も子供もいないし………」
そしてそいつらの視線が向けられたのは、例の甥と姪。
唯一の肉親のあいつらが相続することになるんだ。
下世話な噂話を耳にしながらも、思い出したのはじいさんと交わした"一億円あったらどうするか"という会話だった。
じいさん、本当に一億持ってたならマジで車券場作りゃよかったのに。
荒んだ気持ちを振り払うように俺はまたじいさんの遺影を見上げた。
じゃあな、じいさん。
天国で俺のこと見ててくれよ。
いつか万車券当ててみせるからよ。
ついでにいい嫁さんでも天国から探しておいてくれ。
じいさんの遺影を胸に焼き付け、俺は最後の別れを告げた。
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