じいさんと俺

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その日のうちに若手営業マン、飯塚君に見積書を持って行かせるとあっさりと即決し契約となった。 その次の日には工事に入ることになり、脚立と工具を持って隣のじいさん宅に向かった。 「石嶺さん、こちらは………?」 てっきりじいさん一人だと思っていたのに、俺らの親世代の男性と女性が同席していた。 それなりに身なりの整った二人だが、一体どういった関係なのか気になる。 「あぁ、うちの甥っ子と姪っ子だ」 そう紹介されれば、その二人は俺らを一瞥した。 10年近くこのタバコ屋に通っているのに、初めて見た。 第一印象としては………かなり感じ悪い。 俺らを完全に下に見ている視線にカチンとくるも、仕事だからとなんとか堪える。 聞いた話だと、石嶺のじいさんは15年前に奥さんを失くして以来、一人暮らし。 子供もいたらしいが、3歳くらいの時病気で亡くしたと言っていた。 だからこそ、俺のことを息子のように可愛がってくれていたじいさんに血縁者、しかも近しい親戚がいたことに少なからず驚いた。 てっきり孤独な老人だと思っていたのに。 「伯父が勝手にセキュリティの契約したって聞いたんだが」 感じが悪いままに、甥が口を開いた。 同席していた飯塚君が引き攣りスマイルのまま、契約書を甥に手渡すと、甥と姪はそれを食い入るように覗きこんでいた。 「月額料金はこちらの金額になります。  ………こことここにセンサーを設置しまして、寝室には非常通報用ボタンを設置します」 飯塚君が図面を見せながら説明をすれば二人も真剣な顔をして聞いていた。 感じは悪いけど………それなりにじいさんのこと心配しているのか? ホームセキュリティに本人よりも家族の方が抵抗を示すパターンはよくあるものなので、飯塚君は丁寧に二人に説明をしていた。
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