じいさんと俺

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「・・・・・・」 って、真面目な話じゃねーのかよ。 肩すかしを受けてしまったが、意外と面白い質問なので俺は顎に指を当て「うーん」と考えた。 1億あったら………とりあえず会社辞めて自由気ままに生きるかなぁ。 でもこれから結婚もしたいし、仕事は辞めずにきちんと貯金とかかな? ありきたりな妄想しか沸いてこない発想の乏しい俺を、じいさんは期待を込めたような目で見てくる。 う~ん、なんかこう、もっと面白い使い方は………。 じいさんの手にしている新聞を見て、ふと思いついた。 「そうだな、1億あったら、こんなボロイタバコ屋なんかつぶしてこの跡に場外車券場でも作ろうかな」 じいさんと共通の趣味、競輪を持ちだしてみれば、じいさんは「ほほう」と目を細めた。 「でっかいスクリーンにレースを生中継してさ。  あと、キッズコーナーとかレストランを充実させて、家族でも気軽に来てもらえるようにしたり」 考え出すと意外と楽しいものだな。 じいさんも興味津々で聞いている。 「さすがにレース場は1億じゃ無理だろう?だから場外で。  それでも1億で足りるのかは分からねーけどさ。  そうだな、名前は"サテライト石嶺"にしよう」 「ははは、光栄だ」 「こけら落しには吉岡選手のサイン会とかやってさ」 「それは実にいい考えだよ、時田君!」 引退した選手だが、じいさんと同じファンの選手名を出せば、じいさんも声を出して笑った。 「って、場外車券場って儲かるのか?」 「知らん」 じいさんの無責任な返しに俺も笑った。
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