黄金の波の夢

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米を買う。 新米。こしひかり。 そう。 丁度このくらいの重さだ。 10キロ。 ずしりと重い。 でもその価値に比べれば、なんて軽いのだろう。 1億円とは。 銀行員の女。 富果(とみか)は笑った。 小さい頃から、某車のオモチャと同じ名前のために車が大好きだった。 大人になって、オモチャではない実物を手にいれる。 「富果コレクション」。 富果は、ピカピカに磨かれた車が並ぶガレージを見渡して、ニヤリと笑うのであった。 この車を揃えるために、何年かかったと思う? この車を揃えるために、いくらかかったと思う? そのためのお金はどうしたと思う…? 職場で毎日のように金を触る。 袋を持っただけで金額がわかる。 私の中で、金なんてもう紙切れにしか見えていない。 この紙が何枚で何が買えるか。 そんな計算しかできなくなった私にとって、横領は必然なことだった。 足りないから足す。 それだけだ。 この紙があったら、この世の全てが私の物だ。 「そろそろ帰るか…」 毎日大金を見ていると、そんな妄想をしてしまう。 隣家のガレージの前。 米を抱え直し、ふらふらと歩きだして再び帰路につくのであった。 何が「富果コレクション」だ。高級車じゃなくていい。 小さくていい。軽でいい。 車が一台でもあれば買い物が楽になるのになぁ。 ああ。 その前に免許とらなきゃ…。 これが現実。 もし1億円を自分のものにできたら…なんて思いつつ。 同じくらいの重さの米を手にいれられる日々が、とても平和だ。 これが私らしい幸せの重さである。 紙をおいしいと思うのはヤギくらいだろうから。
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