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開けられたままのドア。その先にはクリーム色のカーテンで仕切られたベッドが四つある。
空調の効いている静かな室内に足を踏み入れた日隠陽聖は、窓際の少しだけカーテンの開けられた隙間から覗く、穏やかに眠る母親の横顔を見て柔らかく微笑んだ。
一つだけ置かれた丸椅子に物音を立てないようにそっと腰を下ろし、バッグを床に置いてから改めて母親の顔を見てほっと胸を撫で下ろす。
母親がこの病院に運び込まれたのは三日前。職場で貧血を起こして倒れ、救急車で一番近くにあるこの総合病院に運ばれ今は静かに眠っている。
医師の診断によればただの過労らしいが、血液検査で僅かに引っかかったため、いい機会だから念のため全身を検査しましょうということになった。
担当医師は亡くなった父親の友人で、優秀な外科医だった。
母親は昔から病気の一つもしたことのなかった健康体だったからか、入院が長引くのを嫌がり検査を拒否しようとしたのを陽聖と担当医師の三田がなんとか説き伏せて今に至る。
二人の説得に渋々ながらもこのまま入院することを受け入れたのには陽聖の父親が関係していた。
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