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「ただいまー」
旧七条邸に帰ってくると玄関ドアを開けて声をかける。
いつもなら勘のいい増田がどこからともなく顔を出してくれるのに、今日はその姿はおろか返ってくる声もない。
どうしたんだと首を傾げながら靴を脱ぐと、きちんと揃えてから中へ歩いていく。
これはジーンに教えられた。
アメリカでは靴を脱ぐ習慣なんかないくせに、自分の靴くらい揃えたらどうだと偉そうに教えられたのだ。
――まあ当たり前っちゃ当たり前だけどさ。
靴を揃える度に思い出すあの光景は戒めのようになっている。
廊下を進んで応接間を覗く。だがそこに増田の姿はなく、増田がいそうな他の部屋を見て回ったがあの凛とした姿はどこにもなかった。
「どこ行ったんだろ」
出かけるなんて聞いていなかったがどこか急に出かける用でもできたんだろうか。
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