【 内村氏はオカンムリ 】

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 依願退職して、いったん、その友人の1人で興信所を経営する桂の元で、その興信所の副所長として働くことになるが、勤め始めて一カ月で気が付いた。  桂が自分をここに引っ張ってきたのは、要は、これまで自分が面倒だと思っていた仕事のすべてを、彼に押し付けるため以外の何物でもなかったということに。  それでも彼のトラブル引き寄せ体質は、ここでも遺憾なく発揮され。  桂を狂喜乱舞させるような事件をいくつか経たところで、これはさすがに割に合わない、身が持たないと気が付いて、現在、経産省に勤める後輩が、最初に勧めてくれた手堅い民間の再就職先に、再度、口を聞いてもらうことにした。  ……この時は元山の手出のお嬢さまだった妻も、やっと彼が、まともな職に就いたと、それは喜んだものだったのだが。  この、再就職先での名誉職が、朝、11時に出社して、新聞を読み、夕、4時ごろに退社して、家に帰って夕刊を広げる。  これ以外に何かすることがあるのかと首をかしげたくなる位、徹底的に何もしなくて良い仕事であったため、またもひと月を経ず、彼は音をあげた。
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