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別れた妻も子も、朝はパンやシリアルで十分な手合いだったから、まさに彼の為だけの用事だ。
朝は米とみそ汁。
あと付け合わせに1品。それがもっとも体に合う。
使っている炊飯器は、結婚当初に購入したもので、もう勤続何十年という代物だが、実によく働いてくれている。
妻にもうあなたにはついていけないと引導を渡されたとき、ローンで購入した一軒家などはすべて妻と子の手に渡ったが、
「これはあなたの相棒だから」
と、ソッと差し出したのが、この炊飯器であったりする。まさにこの炊飯器を抱えさせられ、家からポイと追い出されたようなものだ。
……その時の事を思い出すと少し涙ぐまずにはいられない。
とまれ、そんな訳で、戦友ともいえるこの炊飯器は、そろそろボタンの利き具合などが怪しいときもあるのだが、以来、どうにも捨てることのできないものとなっている。
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