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「そう言われてみるとそんな気もするな」
「それだけじゃなくて、指に番号振って覚えるんだけど、数が駄目な子も多いって。もっと小さい子だと黒と白の違いとか。幼稚園児にはそんなことから教えますって先生が言ってた」
「黒と白か。そうか、子どもだからな、わからないのか」
「そう、子どもって大人が思ってる以上にわかってないことが沢山あるから、何がわからないのか確認しながらひとつずつ進めていきますって、そう言ってた」
「なるほどねえ。ピアノの先生も大変なんだなあ」
「本当。でも、自分が習ってる時はそんなこと全然思ってなかったけどね」
喜美恵が笑った。
「ピアノの先生なんて、綺麗にしててお手本弾いて練習怠けた子を叱るだけ、そう思ってたな」
「お前は練習嫌いだったからなあ」
「そんなことないよ。アタシ、実はピアノ嫌いじゃなかったし練習もいっぱいしてたよ。お父さんが知らなかっただけよ」
「そうなのか。練習嫌いだから辞めたと思ってたぞ」
「せっかくピアノ買ってやったのに、でしょ。あーあ、また昔みたいに愚痴られるの、もうやだよ」
「いや、そういうつもりじゃない。でもな、急に辞めただろ、あれが父さん、腑に落ちなくてな」
「アタシだってそうよ。なんかすっきりしなかった」
「でも、お前が辞めたいって言い出したんじゃないか」
「もういいよ、その話」
喜美恵が顔を背けた。
「すまん」
責めるつもりは無かった。
「ううん、いいよ、もう」
「そうか」
「でもね」
喜美恵は迷っているようだった。
「どうしようかな、本当のこと、話したほうがいいかな」
「本当のこと?」
いったい何を言い出すんだ?
「マーマー」
愛が練習の手を休めて喜美恵を呼んだ。
「何よ、もっと練習しなくていいの」
「もう疲れた」
「まだ始めたばっかじゃない」
「だってえ、先生の言う通り弾こうと思うと、うまく弾けないんだもん」
「いい、先生が言ってたでしょ。なんとなく弾くんじゃなくて先生がしるしをつけてくれたところを注意して練習してくださいって」
「だってー」
「ほら、ここ、右手の指がくぐるところ。弾いて」
「こう?」
「そうそう、右手だけなら先生が言ってた通りにひっかからないで弾けるでしょ」
「うん」
「じゃ、今度は左手」
「こっちの手はうまく弾けないよー」
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