噂のトイレ

　ウチの学校には、幽霊が出るという噂のトイレがある。
　北と南、二つある校舎の四階の女子トイレで、一番奥の個室に入ると、何故か壁の方からノック音がして、その後、『ここを使わないで』という声が聞こえるらしい。
　何年か前の卒業生の中に、実際それを聞いた人がいるとかで、どんなに混雑していても誰も奥の個室には入らない。
　もちろん私も例外ではなく、その個室にだけは何があっても入らないようにしていた。
　そんなある日。
　校門前で忘れ物に気づいた私は、友人達に先に帰路についてもらうと、一人、北校舎四階のクラスに引き返した。
　いつもならそれなり人がいるのに、テスト週間で部活がないため、校内にはチラホラとし人影がない。それでもまだ充分明るい時間だから、
特に恐怖感などはなかったけれど、それでもトイレの前を横切る時はさすがに緊張が走った。
　別に、外を通るだけなら何もない。そう言い聞かせて教室に戻り、忘れ物を鞄に詰める。
　これでもう、後は帰るだけだ。そう思った瞬間、急激な腹痛に見舞われ、私は廊下で半ばうずくまった。
　下腹に強い痛みがある。じっとしているのに冷や汗が出てくる。
　どうしようもなくトイレに行きたい。だけどこの階のトイレに入るのはいやだ。…でも。…だけど。
　苦痛と生理的な欲求には勝てず、私はよろよろと目の前のトイレに入り込んだ。
　入り口を通過しただけで恐怖心が込み上げてくる。でも大丈夫。噂のトイレは一番奥だ。あそこにさえ入らなければ問題はない。実際、今までだって、他の個室は普通に使ってるんだし。
　そう思いながら、私は一番手前の個室に入り込んだ。扉を閉め、大慌てで閉じた便座を開く。
　その瞬間、私は状況の異常さに気づいた。