第1章

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それは、とある家庭から唐突に響いた。 「兄ちゃん、聞いてーな!なあなあ兄ちゃん!!」 兄妹仲がいいと近所では評判の家から響く、妹の声であった。 本人たちは揃って否定をしているが。 最近妹の方が一人暮らしを始めたと聞いていたが、どうやらまた帰ってきているようだ。 転職を控えて英気を養うために昼寝をしていた兄に会うために。 「……よし、愚妹。お前が実家を出て行ってくれたおかげで平和で静かな毎日を存分に味わいながら昼寝をしている兄ちゃんの腹の上で、何で座ってんだ?」 妹の甲高い声に眉間に皺を寄せながら呻く兄。 その兄の腹の上には、妹が満面の笑みを浮かべた状態で跨っていたのだ。 いい年した大人がやるとはとても思えない行動である。 「あ、兄ちゃん起きたな!おそよー(遅いおはようの略)」 「聞け、愚妹。てめぇ、何してんだ?」 「あんな、あんな!」 「無視か、愚妹。とりあえず兄ちゃんの腹の上から退けや」 「ビックニュースやでー!」 「………」 妹、兄の苦情を華麗なまでにスルーしている。 思わず顔が引きつる兄。 妹が自分の話ばかりをし出す時はロクでもないことであるということを、十二分に理解しているがゆえである。 そんな嫌な予感を募らせる兄の目の前で、ついに妹は口を開いた。 「うちな、宝くじ買ってん!!」 兄の腹の上に座ったまま、Vサイン。 本当にいい年した大人がやるとは思えない行動だ。 「はぁっ!?唐突になんやっ!?宝くじ!?」 「そうや!100枚も買うてん!!」 「100枚!?年末でもないのに何大量買いしとんじゃっ!?アホか!?給料の無駄遣いもええとこやろ、ソレ!!」 「え、兄ちゃん……」 妹の仰天行動に、思わず頭を抱えながら全力でツッコミをいれる兄。 しかし、そんな兄の言葉に妹は目を丸くすると言いづらそうに口元に手を当て、物言いたげな視線を兄に投げつける。 「……なんや」 「あんな……うち、自宅警備員(ニート)に給料がどうたらこうたら言われたぁないで」 妹、どこまでも真顔である。 思わず、口元がヒクッっと引きつる兄。
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