第1章

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新しい仕事が始まる翌週までは、兄は無職である。 つい二日ほど前まで前の職場で働いていたとしても、現在は無職なのである。 そして仕事を辞めてから一歩も家から外に出ていない兄。 ……立派な自宅警備員予備軍である。 「喧しいわっ!兄ちゃんは次の仕事が来週から始まるから、それまで無職なだけやんけ!何でニート扱いされなあかんのや!?」 「兄ちゃん、声でかいー」 「誰のせいじゃボケっ!!」 この兄、妹ののらりくらりとした言動のおかげで胃が痛むことが多いらしい。 憐れなことである。 「そんでな、兄ちゃん。うち、宝くじ買うたやん?」 「はぁ……100枚な。100枚も、大半はごみ箱行きの無駄紙を買ったと言っとったな」 「……当たってん」 「は?」 「だからな?……当たってんってば」 「宝くじ100枚分ぐらいの値段は返ってきたんか?」 妹が真剣な顔をしているが、これまでの言動から兄は話半分でしか聞く様子がない。 しかし妹がかつてない程難しい顔をしていることに気が付くと、とりあえずは真面目に話を聞こうと思って未だに腹の上に乗っていた妹をどかして座りなおした。 「あんな?……1億、当たってん」 「……」 妹のぽつりと漏らした金額に、ポカンと口を開ける兄。 「兄ちゃん?聞いとる?」 「あー……うん、聞いとる。マジか?」 「うん。でな?そんな大金もらっても使い道困るやんか?せっかく自分の給料だけで生活できるようになってんから、このままでもええかなって。いっきに金持ちになったら、働く気も失せてこのまま堕落しそうや」 「……」 妹の真面目な話に、思わず兄の視線が遠くなる。 この言葉は、いまだに実家にいる兄の心をグサッと抉る言葉である。 だって、仕方ないのだ。 今はプチニートだから。
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