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男は散らばった札束もそのままに、再びソファに座っていた。いつからそうしていたか、記憶がない。しかし大理石でできたテーブルを見つめながら、金などいらないと本気で思った。
3日も4日も、そのままで過ごしていた。なぜ妻と暮らした家を出てしまったのか、なぜ思い出の家具を買い替えてしまったのか、男は考えていた。あの時は、1億円をどうするかしか考えていなかった。今となっては、いつ床が抜けてもおかしくないあの家が懐かしい。
男は目を瞑った。目に映るのは、妻だけでいいと思った。
どのくらい時間が流れていただろうか。インターホンの音に目を開けた。一定の間隔で、2度3度とインターホンが鳴る。住む世界が違うといつしか友人も離れていった男に、一体何の用があるというのだろうか。
相手も確認せずに扉を開けると、黒いスーツ姿の細身の男がいた。30歳くらいの若い男だが、品はありそうだ。
「おめでとうございます!見事ゲームにクリアいたしましたので、賞金を持って参りました!」
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