第1章

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スーツ姿の男は満面の笑みで語るが、男は納得がいかなかった。妻は死んでいる、と男は告げた。 「ええ、しかしあなたは保証人でしょ? 奥様は、自分に何かあったときの保証人にあなたを登録しています。よって、ゲームは保証人により続行したとみなされました」 そんな話は聞いたことがなかった。30年前と言えば、まだ新婚時。妻は、その頃から30年後を見据えていたというのか。 とにかく、ゲームの話を聞いたこともなければ保証人の話も知らない、このゲームは無効だ、と男は主張した。しかしスーツ姿の男は首を横に振った。 「いいえ、いかなる事情があろうとも、あなたはゲームをクリアされたのです。拒否権はありません。私どもも次々と脱落者が出る中、ハラハラしながらあなた方を見守っておりました。 奥様は、ゲーム参加の理由に、老後をあなたと楽しみたいと申しておりました。30年前から、あなたと添い遂げることだけを考えて参加していたのですよ。こちらの気持ちとしても、是非受け取ってほしい」 男は、時間が止まった気がした。耳に、妻の笑い声が聞こえた。 「では、賞金は置いていきますね」 スーツ姿の男はボストンバッグを2つ、テーブルに置いてソファを立つ。リビングのドアノブに手をかけた瞬間、スーツ姿の男は何かを思い出したような声をあげ、優しい笑顔で振り向いた。 「あ、賞金は、5億円ですよ」
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