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座ったままの彼女は答えず、瞼を半分下げている。
やはりまだ怒っているのかと、エリックは踏みだしかけた。
しかし宙は、そうだと背筋をのばし、笑顔になった。
「おはようございます!」
「ハイおはようさん。そんで? 白いにーちゃんが寝坊だって?」
立ち上がる彼女を捕まえ、宙がシンクの横へ持っていく。
迷惑げにしながらも運ばれた彼女は、話の続きを聞きながらコンロに火をつけに行く。
そして続く、いつもの光景。
引かれるように戸口から一歩入り、エリックは立ち尽くす。
昨夜の事は何だったのか。
あんなに泣かされた宙も、今日の朝食は何があるのかと、やっと頭の出る調理台からのぞいている。
その様は、実に微笑ましいのだけれど。
「おい何ぼけっと突っ立ってんだ。茶ぁくらいいれろ」
こちらへ向くなり彼女が言う。
ただ、しっかりした声を投げているだけなのだが。
何故か、癇に障った。
キッチンへ踏み込み、宙を抱えあげる。
ダイニングの椅子へ腰を下ろし、宙を膝へ乗せたまま、じっとりとキッチンを見てやる。
驚く宙は、何が起こったのかと、見回したりこちらを見上げたり忙しいが、エリックは構わず腕を回して離さない。
とくに反応するでなく、ただなりゆきを見ていた彼女は、瞬いた後に呆れたように息を吐いた。
「何でそっちがヘソ曲げてんだ」
やれやれと背を向けて火を止め、鍋のふたを開ける。
湯気があがり、宙が興味津々に顔を向けた。
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