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「かっか、居ないね」
宙が、新しい折り紙を出しながら、ぽつりと言った。
寂しげというわけではなく、ただ思ったままを呟いたようだけれど。
小さな言葉に押されるように、エリックは白いソファを見る。
無人のそこはやけに大きくよそよそしく、いつものように戻る気にはなれなかった。
「はいどうぞ」
手の上へ、複雑に折られて細長くなった、水色の紙が置かれる。
やはり何かが判らず、宙の顔を伺う。
「さかな!」
言われれば、何度も折られた先に残った紙がある形は、尾の長い魚に、見えるかもしれない。
昨日見た大きな魚を思い出す。
戻ってから何度話を聞いたことか。それ程に、印象深かったようだ。
エリックは苦笑して、宙の手を取った。
「外へ、行こう」
宙はたちまち背筋が伸び、見上げる目に色を取り戻した。
「今日もこうえん、行こうね?」
広い方のだよ、と念を押されながら、取った手を引かれて立ち上がる。
少し遠いが、宙の望むのならば良いだろう。
そして、落ち着かない自分の、気晴らしにも。
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