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部屋へ戻れば、宙はもう、エリックの膝に乗って絵本を開いていた。
たどたどしく読むのは本人だが、肩越しに本を見つめるエリックの方が熱心で、読み方を教わっているように見える。
まだひらがなしか書けない宙に、読み書きを教わるとは。
なかなか面白い。
廊下へ出た刃は、ふと立ち止まり、片手を握って開いてみる。
小さな光球が浮かび、顔を照らした。
呪文を唱えるでなく、意識するでなく、照明のスイッチを押す程度の感覚で出来る事。
そういえば、自分は一体いつ魔法を習ったのか。
ほんとうに、学校には行っていたのか。
師の存在は覚えている。が、どんな人物だったのか、はっきりとは思い出せない。
耳障りの良い穏やかな声の感覚や、声に合った雰囲気は、記憶の糸口として見つかるのだけれど。
「……居ねえ人のこと、考えてもなぁ」
すぐに、考えるのが面倒になった。
ひとりごちた彼女は、洗濯物の片づけに戻る。
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