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   描かれている絵の中の、手をつないでいる3人。そこにあのひとは居ない。  でも今、自分は一体何を腹の底へ押し込めたのか。  今朝言われた言葉がよみがえる。  大丈夫。  そう思うだに、「食べた」ものたちが今更になって存在を主張し始めたように、重い。  宙へ上手く笑顔を向けられず、エリックは紙の上に視線をさまよわせた。 「言ったら怒るから、ないしょだよ」  何でだよ、と口まねをしながら、宙は絵の上に文字を書いていく。  『そら』。  それだけはエリックも読める。  自分に字を教えようと、何度も宙が書いてみせた二文字。  あとの2つはまだ読めないが、きっと予想通りの名前だ。 「帰ってきたら、かっかにも見せようね」  出来上がった絵を見せる宙へ、今度は笑顔を返せた。  宙が楽しくしているなら、それでいい。  
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