3人が本棚に入れています
本棚に追加
「……閣下」
耐えかねたエリックが起き上がり、少し青ざめた様子で主を見た。
白銀の巻き毛が僅かに揺れ、向けられた瞳はもう笑んでいる。
「ああ遙霞。案ずるな、この女が浅薄な事を言っているに過ぎん」
「テメェいきなり戻って蒸し返しといてソレか。大概にしろよ」
「弁えろ。宙が目を覚ます」
そしてまた空気が冷えるものだから、エリックはベッドから降りるべきかどうかさえ分からなくなり、小さくなる。
逡巡していると、視線を切った主の姿が消えた。
次の瞬間には、ふわりと薔薇が香り、優しい重みが肩へ乗った。
間近に穏やかな声がする。
「新しい事を試みたか。良い事だ」
主の指に唇をなぞられ、エリックは硬直した。
何の許しも無く食事をしていること、主がそれを知っているという事。
そのせいで、これから何か起こるとしたら。
それはきっと自分の我儘のせいだ。
今更ながら青くなる。
だが主の言葉に、咎める気配は無い。
「何を恐れる。宙は喜んでいただろう」
微笑まれ、ふぅと頬に熱がのぼる。それを楽しむように、主は更に笑んだ。
「後でゆっくりと聞こう」
最初のコメントを投稿しよう!