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 エリックは口もとを押さえ、恥じ入ってうつむいた。  まだ何かあるかと、主は、悠然と流し目をくれている。  あのひとが、怒鳴ろうとしてか、するどく息を吸った。  が、吸い込まれた空気は、大きなため息となって吐き出された。 「……あほくさ。寝よ」  がりがり後ろ頭を掻いて、踵を返したようだ。  エリックが盗み見た横顔は、いつものように辟易した様子で、先ほどまでの怒気は抜けていた。  ああ、  このひとはほんとうに。  言いたいことだけを声高に言って、気が済めばころりと気を変える。  なんて自由で迷惑な。  だが睨む背中はすこし、いつもより曲がり、何か鬱屈しているようだ。
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