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ドアへ行きかけた足が、ソファの横で、不本意そうに止まった。
「……宙は」
ぽつりと、呟く。
その背中は機嫌悪げだが、ゆっくり、考えながらのように髪をかきあげる。
「親元から離れてんだろ。事情ァ知らねえけど、あのネエさんと二人っきりだろ」
腕で表情は隠れているが、あさってのほうを向き、口は拗ねたように尖っている。
「そんなとこに、簡単に、きょうだいが出来るなんざ言った奴の無神経さに、オレぁ腹が立っただけだ」
それきり口を曲げて、黙りこくる。
主が、僅かに眉を寄せた。
部屋の空気が妙に凝り、エリックは表情を無くして硬直する。
何を言っているのか、彼には分からない。
やがて、主が、ため息のように口を開いた。
「……悪魔の言だ」
「何だって?」
少し悪びれた風にさえ聞こえた呟きは、彼女の耳には言葉として届かなかったようだ。
主は素知らぬ顔で、エリックの髪へ触れている。
そして、何でもないように言う。
「宙が望むのなら、叶えることは手易いが」
「……。」
ぴしりと、やっと落ち着いた刃の表情へ、ひびが入った。
にっこりと、満面の作り笑顔で振り返る。
「……あんた、オレの言った事聞いてたか? 殴られてェのか? あ?」
今、きょうだいは物とは違うという話をしたばかりだけれど。
主はそれも知らぬ顔で、エリックへ語るように続ける。
「宙が求めているのは、年少の友人だ。妹そのものではない」
彼女が目を見開き、言葉を飲み込んだ。
やっと目を向け、主がしたり顔で笑む。
「言っただろう。お前は厳しくあれ。私は宙を愛でる」
「ッかー! このクッソ死神!」
ソファーの脚が蹴飛ばされ大きな音がしたが。
主は微塵も揺るがなかった。
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