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森川くんが、車に乗り込もうとするところを見送っていると、
体を乗せかけて、フッと振り返った。
「あ。そうだった……」
もう一度私に近づいてきた森川くんは、ポケットから、何かを取り出した。
「田口さぁ。
今日の帰り、ほとんどバス降りなかっただろ?
帰りの土産屋で、見つけて、お前なら、好きだろうなってつい買ったんだけど……
やるわ」
森川くんは、ちょっと照れくさそうに、お土産屋さんの名前が印字された小さな紙袋を私に手渡した。
「うそ。私に……?」
受け取る手が震える。
「石、好きなんだろ?」
「うん……開けていい?」
「あぁ……」
紙袋の中には、小さな巾着袋と、琥珀色と薄茶色がマーブル模様になった石が透明のビニール袋に包まれて入っていた。
説明が書いてある紙と一緒に。
「レッドタイガーアイ?」
「あぁ。地のエネルギーを持った石らしいし、あそこの土産にもいいかなと思って」
いつものちょっとバカするような笑顔と違って、少しうつむいて、はにかんで私を見る目が、なんだか優しい……。
「すごい、うれしい……
ありがとう」
「まぁ、高くない普通の土産物だし、別に、深い意味はないから」
「え。そうなんだ……?」
思わず、期待しそうになっていたけど……。
そっか……。深い意味はないんだ……。
一度上がったテンションが、一気に下がって、うつむくと、
フッ。
と森川くんの、笑った声がした。
「そういう、わかりやすい顔しとけ」
「……!!」
考えを見透かされたようで、体が一気に熱くなった。
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