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さっきとは違う切ない感情に支配され、体が小さく震える。
涙を見られたくなくて、森川くんの胸の顔をうずめた。
森川くんは、ふぅっと大きくため息をついた。
「……どうしても、辞めるの?会社……」
「あぁ……。もう決めたから」
具体的に何があったのかなんて、何も教えてくれないけど、なんとなく分かる……。
森川くんは森川くんなりに、前に進もうとしているんだよね。
「一つだけ、聞いていい?
もし、私があんな宣言をしてなかったら……私を抱いてた……?」
私は顔を上げて、しっかりと森川くんを見据えた。
少し近づけば唇が触れてしまいそうなくらい、近い……。
森川くんは、少しだけ眉間にしわを寄せ、私の視線を反した。
「どうかな……。
でもたぶん、あの日、俺があそこにいなきゃ、田口を好きになることもなかったかもな……」
「そっか……」
過去のことなのかもしれないけど……。
森川くんは、ちゃんと私を好きでいてくれたんだよね。
その言葉が聞けただけで、ここに来て良かったのかもしれない……。
「今は、正直、やせ我慢だけどな……」
「我慢なんて……」
しなくていいのに……。
もう、私からそんな言葉は言えなかった。
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