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朝、アパートを出ると、ビューっと吹いてきた風に秋を感じた。
街路樹も、緑の勢いがなくなって、
いつのまにか季節は移り変わっていく。
森川くんが退社して、そろそろ1ヶ月が過ぎようとしているけど、
私の周りは何も変わっていない。
彼が受け持っていた仕事は後任が引き継ぎ、
あの有吉会さえも、そのまま継続されている。
服部さんからは、一度だけ携帯に電話があった。
森川くんがいなくなったら、次は服部さん。
そんなずるい保険をかけていたはずなのに、
そんな気には、到底なれず、そのことを素直に伝えると、服部さんも納得してくれた。
百田さんからは、一度、給湯室で詰め寄られた。
怒っているというより、憔悴したような表情で……。
「森川くんなんで辞めたか知ってる?携帯も繋がらなくて……」
「何も、知りません……」
「そう……よね……」
本当に知らないのだから、これ以上言いようがなく、
百田さんからもそれから何も言われていない。
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