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「戯作本なるは未来にはないが、くだらないユーモア小説みたいなものか?」
「戯作に未来はないと分かれば、やっぱし首を吊るしかねえや」
男が悲嘆に暮れるのも無理はないことで、この明治六年の御代に猫神が云ったことは理解を超えた言葉だったからでございます。
「まったく落ち着きのない男だな。それよりもお前さんの名はなんというのかな?」
「オイラの名前は仮名垣 魯文と云う、しがない文士でございます」
「かながき ろぶん、と云う名前か。どれ眼を見るから近う寄れ」
「猫神様はお殿様でございますか。えっ、眼を見せろとはケッタイな注文で、どうか爪を立てないでくださいよ」
驚きながらも云われるがままに魯文は両の眼を見せると、猫神が眉根を寄せながら難しい顔をした。
それがまた妙に可愛いものだから、大の猫好きである魯文の目尻は下がりっぱなしである。
「やはり吾輩の見立ては正しいようだ。お前さんは世にも希な仇討ちの眼相を持つ者であるな」
「何ですか、その眼相ってヤツは?」
「いいかい良くお聞きよ。人間の運否天賦というヤツは、両の眼にあらわれるんだよ。眼目と云う言葉があるだろう? あれは眼に重要な事柄があるという言葉の証だよ」
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