第1章

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第1章

紅蓮の炎に包まれた大坂玉造の細川屋敷を、細川ガラシャはちょっとした陶酔感を感じる表情で見ていたが、黒装束の一人に急ぐように声を掛けられ、一瞬にして厳しい表情に戻った。声をかけたのは細川家専用忍びの谷啓蔵である。 歳はもはや50歳の大台に入ろうとしていた。 この頃、1600年の日本の時代は、やはり世界もだが平均寿命は低く、織田信長が語った「人生50年!」のように50歳はかなりのお年寄りになる。 一応、仮にも名所ある細川家の忍び、今で言う諜報部員であり、忍び頭(かしら)であるから、食事や待遇も他の忍びよりは、扱いは良いと思うが、それでも度重なる有事への備えや、昼夜問わずの警護、そして、屋根裏部屋等での仮眠等で常人よりも老けるのが早いのかもしれなかった。 細川ガラシャは、歴史上では今日で大坂玉造の細川屋敷の中で、小笠原氏によって槍で心臓を一突き、その後、小笠原氏も自害し、家来によって火をはなたれ、そして、爆薬をしかけられ屋敷もろとも細川ガラシャの死体は木っ端微塵となった。 だがしかし、細川ガラシャは燃え盛る細川屋敷を今まで遠くの茂みから観ていたのである。 本来なら私はあそこにいて、あそこで心の臓を突かれて絶命していた頃だ。 だが、細川ガラシャはここにいた。 ここに、この藪の中で浪人武士のように変装し、から傘まで被っていた。 黒装束と細川ガラシャと同じような浪人風情の侍の格好をした警護が二人、ガラシャも入れて4人の集団はもはや後ろを振り向く余裕も無く足早に北の方角に脚を進めた。 ほどなくして、大音響の爆発音が響き渡り、細川ガラシャは一瞬びくっとした。 image=495483646.jpg
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