Ⅵ. 魔王、憂慮。

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そういえば土いじりが好きだとか言っていたなと思い出して言うと、驚いたのか勇者が肩を揺らした拍子に箸で抓んでいた漬物がころりと落ちる。 幸いにも茶碗に着地して無事だった漬物をもう一度抓み直し、勇者ははしはしと目を瞬かせた。 「え…っと。いいの?俺がやっても…」 「嫌か?」 「いやむしろ嬉しいけども。ほんとにいいの?俺にやらせたらそのうち家庭菜園とか始めちゃうかも」 俺どっちかって言うと花壇より家庭菜園の方が得意よ?と不安げに言う勇者に、構わんさと首を振る。 「どうせ今まで手付かずだったんだ。あの荒れ地がある程度庭としての体裁を取り戻せれば形式は花壇だろうが畑だろうが問わん。道具はあの東屋にあるものを使ってもらって構わないが、他に必要なものがあれば遠慮なく言ってくれ」 元々俺一人では手も回らずに持て余していた庭だ。このまま荒れ果てた状態で放っておくよりも、勇者に使ってもらった方が土地や道具たちにとっても良いのではないだろうか。 物や人の出入りがあれば、瘴気の発生も落ち着くはずだ。 「えー…まじで?いいの?」 「嘘を吐いてどうする」 「…魔王に二言は」 「ない」 しつこいくらいに確認してくる勇者にきっぱりと言ってやれば、勇者は嬉しそうにふにゃりと相好を崩した。 「…ん、わかった。じゃああの庭、預からせてもらうな」 「ああ。頼む」 「へへ、どうしよっかなぁ…楽しみ増えたわ」 頑張ろ、と笑う勇者は予想以上に楽しそうで、頼んで良かったと少し安心した。 …さて、もうこの流れで言ってしまおうか。
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