曼珠沙華の彼女

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ひとしきり笑ってから薔薇の棘に触れた。 愛しそうに、慈しむように真っ赤な花弁を見つめて。 「俺はどんなリスクがあっても躊躇しない」 棘からスッと花弁に指を這わせる。 顔を上げこちらを見る顔は楽しそうだ。 「でもお前は怖がってあいつの核心に触れられなかった。そうだろ?」 勝ち誇った笑みを見せつけられて、大人気ないなと思う。 というより、そう思わないと平常心を保てない。 ……だって本当のことだから。 「大人の余裕が欲しいなんて、リスクを背負う覚悟がない奴にはまだ早い」 反論できなかった。徳の言ってることが正しい。 「……んじゃ、そろそろ帰るわ。ちゃんと店番しろよー」 「うん。どうもありがとうございました」 背を向けたお客様に形式的な挨拶を。 「あ! 言い忘れてた」 こちらを向かない徳の代わりに二輪の薔薇が顔をのぞかせる。 二輪の、薔薇……。 「薔薇の花言葉って、本数によって変わるらしいな」 「……そうだね」 「花屋の息子だから分かるか? 二輪の薔薇の花言葉」 花には疎くて分かんないんだ、なんて。 分かってるくせにこの男は本当に意地が悪い。 「……二人だけの世界、だよ」 「へぇ……教えてくれてありがとな」 背中を向けてるから表情を知ることができない。 けどどうせまた笑みを浮かべてるんだろう。 店を出ていく大きな背を眺めながらそう思った。
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