第1章

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新潟市北区には葛塚大橋があります。 川のほとりに来るとはじめてなのに安心します。新潟はやっぱりいい。群馬もいいけれど海岸線から離れすぎると今すぐ海が見たくなったらどうしようと言う不安がつきまといます。新潟ならいつだって海を眺めに行けます。だからむしろ見に行かない。そんな中、川に行っちゃう余裕。 水面には雨でもないのに波紋が見えます。あめんぼでしょうか。暗くてよくわかりません。カエルが鳴いています。秋の虫たちも。こんな秋の夕暮れに似合う曲を、思い浮かべるままに吹いてみます。 あしたがすき 明日はどこから 生まれてくるの 私は明日が、明日が好き すてきな事が ありそうで 私は明日が、明日が好き キラキラ光る 風の向こうで あの人が私を私を 呼んでいる キャンディ キャンディ キャンディ キャンディ 右から左へと、水面を切り裂いて、何かが下っていきます。あれ?もしかしてガーコじゃないか? やっぱりそうだ。ガーコ、でも僕はこうしてハーモニカを吹いています。歌を途中でやめて、「ガーコ」と呼びかける事も出来た。でも、そうしなかった。僕はもう過去にしがみつくのはやめたんです。 今まで黙っていたけれど、こうなった以上、皆さんには本当の事を伝えなければいけません。僕はアヒルのガーコと付き合っていました。今のカミさんと知り合うずっと前です。僕も若かった。ちょっとした行き違いで別れる事になりましたが、ガーコと過ごした日々は忘れません。 誰かがガーコにちょっかいを出して、ガーコが騒いでいます。ギャーギャーと鳴いています。羽ばたきながらに水面を駆け出して、少し浮き上がり橋の向こうに逃げていきました。逃げろ、ガーコ。さよなら、ガーコ。 また明日。
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