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「……!?」
最初に目を開けた彼は、ただそれを凝視する。
掴まり合う彼らを鎮座して見下ろす、再来してしまった有り得ない兇獣。
正確には、有り得てはいけない――鬼子と呼ばれた彼が、贖ったはずの罪。その忌まわしい具現を目の当たりにして。
「――な……!」
絶句する彼の横で、二番目に目を開けた悪友が、彼らの前に厳と在った巨体に気付く。
「……って、何やあああ!? レイアスオマエ、『実体化』つこたんか!?」
その異常さを知る者が故に、やはり唖然と声を上げる。
「あれ……ここは何処?」
昼間の山中であったはずが、暗い霧に包まれた狭い平野で、最後に目を開けた彼女はまず辺りを見回していた。
間もなく、彼らを頭上から睨む四本足の獣……輪郭がもやもやとし、コウモリのような翼で爬虫類じみた、人家ほど大きい真っ赤な異物を暗い青の目に捉える。
「――」
彼女はそこで、息を飲んで巨獣を見つめた。
「――俺じゃない! 来るぞ、走れ!!」
立ち尽くす悪友と彼女を彼がぐいと引っ張った直後に、音も無く立ち上がった赤い獣は、二枚の翼で激しい強風を起こしながら薄暗い空に飛び上がった。
「おわああ!!」
「あ――……!」
煽られて吹っ飛びそうになりながら、彼に捕まれて何とか留まった彼女だったが。
「待って――……!!」
何故かそれだけ、夕暮れ前の上空の赤い獣に、必死に叫びかける。
彼女を支えるだけで精一杯だった彼の横で、悪友が獣の次の行動をいち早く察知した。
「あかん! 突っ込んでくる!!」
その獣は決して、彼らの味方ではないと、悪友は悟ったのだろう。
「逃げぇレイアス、アフィ……!!」
彼と彼女を咄嗟に突き飛ばし、地面も抉る獣の特攻を、たった一人で受けた悪友だった。
「タツク!!」
道幅を軽く超える距離を飛ばされ、彼女を受け止め抱えた状態で、彼は強く腰をつく。
悪友がいた場所――小さなクレーターの内部を確認する余裕もなく、赤い獣が、今度は彼ら二人に首を向けて狙いをつけた。
「アフィ、やばい……!」
「――!!」
ごろん、と体勢を変えて彼女に覆い被さるように獣に背を向ける。地面を蹴って紙一重で追撃を避ける。間近を飛び抜ける獣の風圧を、一人で受けた全身に細かい裂傷が走った。
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