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とにかく二人して立ち上がり、獣が大きく離れた隙をついて、彼女の手をひいて近くの森へと逃げ込んだ。
「レイアス、大丈夫!?」
「俺よりタツクだ――あのバカ、粉々になってなきゃいいが」
「……!!」
クレーターから悪友が出てくる様子はない。まず悪友の気配がほとんど感じられないことが、致命的な負傷を受けている証だった。
きっと悪友は、その赤い獣との交戦を躊躇い、防戦にまわる猶予もなかったのだろう。この状況の衝撃で彼の感情が麻痺していなければ、喋ることもできないような緊急事態だ。
「そんな――でも、あれが『魔竜』なの……!?」
呆然としている彼女が、自らを責めるような蒼白な顔色をする。
その顔を見て、冷静さなど消えていた彼は、上空を飛び回る獣の真実をすぐに明かしてしまった。
「違う。アレは俺の分身――にそっくりな……俺の昔の霊獣だ」
「え……?」
彼女はそこで、悪友が動けなかった理由を敏く感じたように、衝撃の声を呑み込む。
「アレを攻撃すれば、俺も傷付くかもしれない。やってみないとわからないが……」
彼自身、それがわからないこの状況に動揺を隠せず、実情を伝えるしかない。
「霊獣は俺達の……もう一つの体なんだ」
それは本来、本体たる彼と感覚を共有し、霊体として特定の獣の姿をとる「力」だった。
「でも霊獣のままなら、さっきみたいな直接攻撃はできないんだ。代わりに霊獣が攻撃を受けても、俺に傷が反映することはないが……それを『実体化』したら、話は別になる」
「力」のみを使え、「力」でのみ傷付けることができる霊体は、そのままなら映像でしかない。けれど実体となれば物理的干渉が可能となる代償に、本体に負荷が共有されるのだ。
しかしそれが「実体化」によるなら、不可解なことがある。頭上で暴風のような咆哮をあげる赤い獣を、彼は苦々しく見上げた。
「アイツは実体の霊獣だ。でも俺と繋がりが無い……大体、俺がここにいるのに、アイツが現れること自体がおかしいんだ」
しかもそれは、彼が鬼子と呼ばれていた頃に、事あるごとに暴走させてしまった獣と同じ姿をしている。その獣は昔、ある事件で失われ、彼が「力」を制御できる今は違う姿をとるようになったはずなのに。
「……俺の右手と一緒に、アイツは消えたはずなんだ」
その混乱で悪友も、見知ったその獣が彼であるかどうか、一瞬の判断を迷ったのだろう。
実際に彼と獣で負傷が共有されるか、傷付けてからわかるのでは遅いと。
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