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「…………」  彼女はしばらく、硬く唇を引き結んでいたが……。 「あのね……ここはひょっとして、レイアス達の里の中?」  彼が思いもかけない事柄を、不自然に冷静な暗い青の目で、静かに尋ねてきたのだった。 「――」  煙に巻かれ、顕れていた平野は確かに、彼女が言うように彼らの里の修行場……幼い頃の彼が何度も、「力」を暴走させてしまった場所だった。 「言われてみればそうだ……でも何でわかるんだ? アフィ」 「……やっぱり。それならこれは――『てぃな・くえすと』の中のはず」  彼女が口にした謎の言葉について、彼が当然尋ね返そうとした時だった。 「――まずい、アイツ……!!」  不自然に滞空していた赤い獣が、その内に溜め始めた「力」に彼はすぐ気が付いた。 「ここを燃やすつもりだ! とにかく逃げるぞ!」 「……!!」  そうして彼らが森の奥に走った直後、赤い獣は口とおぼしき所を開くと、そこから派出に森に炎を噴きつけ始めた。  炎に追われて走りながら、彼女は息も絶え絶えに、その根本を伝える。 「あのね、レイアス……! ここはわたし達の――特にレイアスの魂が創った場所なの!」 「――!?」 「わたし達みんな、さっきの煙に分解されて取り込まれてる! 『てぃな・くえすと』は魂の解剖装置で、嫌な思い出や有り得る未来が、記憶から具現される娯楽だから……!」  その名もずばり、(T)魂の(I)色んな(N)生傷を(A)顕わにする、妖精独自のゲームなのだと、彼の妖精への嫌悪感が倍増される実態だった。 「取り込まれたわたし達は一番強い姿に再現されるけど、ちゃんと出口を見つけないと、無理にここを壊したら魂だけが一緒に消滅しちゃうって……! わたしも近いのを何度もさせられたから、多分顕れた課題をクリアしなきゃダメなの……!」  ということは――と、彼も息を切らしながら真っ先に尋ねる。 「じゃあタツクは、俺がこれをクリアすれば助かるのか!?」 「わからないけど、このままなら助からないかもしれない!」  どんどんと炎が燃え広がり、呼吸する大気も棘だらけのような状況で、彼女は可憐な見た目よりずっと図太いらしい。彼より余程荒事に堪える落ち着きで、そこまでをしっかり短く伝えた。
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