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――とりあえずアフィちゃんのこと、何も言わずに送ってあげたら?
あんなにも自然に、彼らと笑って話す、懐かしい幼馴染みの姿。
その小さな約束は、できれば守りたい。そんな想いが、他種族との喧嘩も買ってしまう原動となったのは間違いない、彼らの旧い絆だった。
地が割れるように、義手が軋む。その音が彼を、虚ろな現実へと呼び戻した。
重い呪いの赤い獣を全身全霊で受け止め、泉の「力」でも防ぎ切れない業火に、気が付けば彼は包まれており……アホだな、と、遠のく意識の中で自嘲する。
「……大体……アシュ―を好きなのは、タツクなんだし」
長年来、彼と悪友には、幼馴染みに必要以上に近付かない暗黙の了解がある。彼は悪友ほど幼馴染みを意識していたわけではないが、大切な相手であるのは間違いなかった。
ここで彼がいなくなれば、悪友は遠慮なく幼馴染みを狙い始めるだろう。
悪友が助かるなら、それでいいかと。彼は改めて、命尽きるほどの「力」を長剣に込める。激しい炎から彼を守る最後の砦の、全身を巡る「気」が容赦なく削られてカラに近付く。
……無意味無意義、無我こそが無害。
この赤い魔物――禍の鬼子と。幼い彼に向けられた罵倒を、そのまま赤い獣に吐き出す。
燃え尽きるまで全ての力を剣に注げば、赤い獣を裂いてくれるか。その隙だけを彩の無い眼が探す。
……そうして彼が、自身と引き換えに、己が呪いを清算せんとした――長過ぎる一瞬のことだった。
「……そいつは、オレの獲物だろ?」
彼の背後で噴き上がっていた泉が、眩い星彩となったかのように、突然内から破裂する。
驚く間もなく、竜巻のようにソレは、水面を引き裂いて激しく躍り上がった。
「――……!?」
水柱と共に現れた、両端に刃のつく長い武器を構える青い人影。
赤い光を纏うためか、全体としては紫の暗影、蒼く見えるその青年。手にした長物と共に、蒼い男は、獣を押し止める彼の頭上に鮮やかに跳び上がる。
そのまま、彼の呪いたる赤い獣を、両極の長い大鎌で――
完膚なきまでに、蒼い男が、その呪いの鼓動を切り裂いていった。
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