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ひたすらぽかんとする彼に、紫苑の髪と目の少年は、慣れたように明るく笑った。
「ところでにーちゃん達……名前は?」
自称何でも屋。造って戦える天才職人ラスト君。尖り髪を押える額の大きなゴーグルが特徴的な、紫苑の少年が名乗ったのは、そうしたややこしい通称だった。
「オレもこの近く歩いてたら、急に変な白い煙に巻き込まれて、気が遠くなってさぁ」
気を失った悪友を見つけた彼が、悪友を介抱する横で、少年は旅慣れた様子であっさり火を起こす。そのまま、空色の流人の彼女の隣に座り、楽しげに事情を語り始めた。
「まさか妖精の道具で魂レベルに分解されたなんて、思いもしなかったけど! ぼけっとしてたらこのねーちゃんの声が聞こえて、声のする方に行ったらその時まさに、こっちのにーちゃんがあの火トカゲに食われそうになってたってワケ」
そうして彼を助けたという戦果を、少年が意気揚々と語る反面、助けられた彼は不服気としか言えなかった。
「……火トカゲって言うなよ、アイツを」
そもそも本当に、この少年に助けられたのか、彼は未だに納得がいかないままだった。
それらの話を一通り聞いた後で、彼女も穏やかな笑顔で首を傾げる。
「でもおかしいな。わたしが『水』を喚ぼうとした時、出てきたのはお兄さんだったよ?」
蒼い男の姿はどうやら、彼女にも見えていたらしい。
「それにわたし――ヒトを喚ぶ『力』なんて、持ってないはずなんだけど」
まずもって、「水」を喚んだという彼女は、その時いったい何をしていたのだろう。
魔法は使えないと言った彼女に、彼は無意識に、気になる視線をじーっと向ける。
草の上にあぐらをかく少年は、赤い獣を斬った鎌を手入れしながらにこやかに応えた。
「オレ一応、水属性近いからかな。妖精道具で招かれた精神世界なら、そーいう可能性もあるってコトじゃない? オレが実力相応のイケメンに見えたりとかさー」
あ、そっか。と、思い出したように彼女は、両手を打って微笑む。
「『てぃな・くえすと』で再現されるのって一番強い時の姿だっけ。それなら、大人の姿で出てきたっておかしくはないよね」
「…………」
その結論は確かに、彼女が納得したように、最も明快なものではあったが。
――……それでも……コイツみたいに、色まで変わるものなのか……?
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