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 「力」ある者に固有の色を視る彼の眼は、これまでの十七年、時間経過で色が変わった相手を見たことは無かった。  唯一の例外として、複数の己を持つ化け物……例えば「魔族」という悪魔に似た化生が、残酷で容赦なき人格へ、堕落する時に有り得るくらいだった。  彼らと話しながら、楽しげで軽いノリの少年には、「魔」のような紅い影は片鱗も見られない。むしろ少年がきらりと放つ紫の眼光は、「魔」と対極と言えそうな稀有のものでもあった。 ――……。  何故か彼には、その紫苑の少年の笑顔が、目を離せない暗影を伴ったものに見えた。  赤い獣が滅んだ後の全身の異変も、今は僅かに気怠さが残る程度だ。それでも日頃の彼には考えられない体の重さが続いている。 ――……本当の姿……なんてわけ、ないよな………。  一瞬だったが、あの不敵そうな蒼い男とこの人懐っこい少年の差に、思わずそう感じた不可解な彼だった。  それにしても――と。  空色の流人の彼女が、少年に対してあるべき疑問に、やっと立ち戻る。 「ラスト君は、こんな山奥でいったいどうしたの? 一人でずっと旅をしてるの?」 「ラストでいーって。オレもアフィねーちゃんって呼ばせてもらうからさ♪」  馴れ馴れしい少年は、ぴたっと彼女に甘えるように寄り添って嬉しげだ。眠る悪友を横に彼は不思議と、ますます不興が募る。  そこで少年が口にした、この山まで少年がやって来た目的は……驚くべき話だった。 「あのさ、にーちゃんやねーちゃん達はさ。この辺りに『霊獣』の村があるかどうかって、隠れ里の話とか知らない?」  何と少年は、ピンポイントで、彼と横たわる悪友の故郷を名指ししてきた。 「――って……何やってぇ!?」  そのたった一言に反応したのか、責任感の強い長の息子が、そこで目を覚ましていた。  うぉあ!? と悪友は、寝覚め一番に両目に涙を溜めて体をぶるっと硬直させる。 「何やこれ、全身がアホ痛いんやけど!? 人間の筋肉痛ってこんなんなんか!?」 「……元気そうだな、タツク」  一見外傷はなく、彼に近い状態らしい悪友に心底ほっとしたものの。 「何処が元気やねん、つかアレ、レイアスの霊獣は何処や!? オマエアレ、久々に暴走させよったんか!?」 「……その説明は、面倒だから、アフィから聞いてくれ」  安堵と同時に、強い疲労が込み上げ、彼はげっそりと答えた。
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