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「鳥を集められるくらいなら、タツクも自力で脱出してるはずだし……」
「そうだね。だから自発的に、タツクを心配して集まったんじゃないかな」
何でもないことのように笑いながら、幼馴染みはその、大きな疑問を改めて提示した。
「あの屋敷、おかしいよね。中の気配が漏れないようになってる感じだけど、人間の町でどうやってそんなこと、できるんだろ?」
「…………」
紫苑の少年がそこで黙り、ぐいっと飲み物を口にする。
彼も言うことがない中、空色の流人の彼女が話に入ってきた。
「誰か千族さんが協力してるとか、そういう可能性はないかな?」
「それが一番ありそうだよね……でもタツクみたく実力のある奴を誘拐や、懐柔できるほど強い奴がいるとしたら、やばいと思うけど……」
怖々と話す幼馴染みに、彼も大きな不安を覚えた。
「それなら……かなり危険な場所かもしれないな、シャル自体が」
千族狩りのディアルスに気を付けろ。そう聞いていた彼らだが、そこに繋がる脅威が、まさか最寄りの人間都市に潜むとは考えたこともなかった。
「タツクのレベルの千族が他にも捕まえられてる可能性があるなら――下手に踏み入れば、何が起こるかわからない」
彼らが巻き込まれた事態は、思っているより深刻そうだと、現実を実感し始めた彼の重い声だった。
ずしんとした場の空気を、打ち破ったのは再び口を開いた少年だった。
「何てーかさ。ねーちゃん達ならともかく、捕まったのがあのにーちゃんって、イマイチ助けに行くぞ! ってやる気が出ないよね」
「それは言わないお約束。というかあたし達が捕まったらラスト君は助けてくれるの?」
「とーぜん! アシュリンのねーちゃんはまず、捕まらないだろーけどね」
「わあ、頼もしいな。ラスト君頼りになりそうだよね、ねぇアシュリン?」
にわかに女性陣の注目を惹いて嬉しげな少年に、取り残された彼は、オイオイ……と、何気なく机の下の大猫を見つめる。
「……」
大猫の雰囲気は、和やかな場よりずっと緊迫している。その本体である幼馴染みは、見かけより不安なのだろうと彼は納得する。
そもそも荒事からは逃げ回る幼馴染みが、当然のようにこの場にいること。
紫苑の少年から悪友のことを聞き、危機管理も旅に出る本来の目的も置いて、幼馴染みはここにいる。おそらく強く――人間の屋敷から出て来ない悪友を心配して。
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