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紫苑の少年、何でも屋の頼りがいは、長い両極の大鎌を自在に操れる戦闘能力ではない。
そうした武器や道具を自作し、様々にアレンジして扱えることだと、少年は己の特性をシャル都市長の屋敷に続く夕暮れの林道で彼に説明した。
「色んな情報を集めておくのも、どんな道具が必要そうか、使える道具をどう生かすかの前哨戦ってわけさ」
「……何でも屋っていうのは、とりあえず凄いんだな」
彼が一番驚いたことには。港町で彼を不審者扱いさせた大きな要因、背負う長剣と大切な道具袋を、少年が何と――片手で持てる牙型のキーホルダーと、少年の腰にあるような、一見小さな皮袋に、その場で擬態させてくれたことだった。
「携帯型にした物は、気を与えれば元に戻るし、与えた気を抜けばまた小さくなるから」
千族としての少年の特技が、物に直接介入できる「力」を扱うことだという。それは、無機物ならば本質からいじれてしまう――携帯型に擬態できるような異業のようだった。
ということは……と。
彼は、悪友を探して人間の屋敷に乗り込む前に、どうしても少年に相談しておきたいことができてしまった。
「オマエ……何でも造れる何でも屋なら、俺に右腕を造ってくれないか?」
彼らを妖精から隠した結界道具や、少年が使う大鎌を見ると、それも可能だと思わせるほどの完成度がそこにはある。
紫苑の少年は、ふえ? と首を傾げながら、彼の右手が義手であることに、そこでようやく気が付いた様子だった。
「別にそれは――時間かかるけど、できないことはないけど」
しかし何故か、それまでの得意そうな様子から、少年の空気が一転する。立ち止まって彼の右手を検分しながら、不意に憂い気な顔付きで、少年が彼を見上げた。
「兄ちゃんは……その腕で、誰も殺さないと約束できる?」
「――何だって?」
紫苑の少年は、これまでの軽さが嘘のような目で、それを真剣に彼に尋ねる。
「そもそもオレ、武器屋じゃねーから。殺さないって約束できる奴か、余程守りたい相手じゃなきゃ、武器は――武器になるものは、オレは造らない」
言い切った少年の真摯さは彼にはとても意外で……そして何故か、ふっと胸が温かくなる、幼い少年の一面だった。
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