3/10
前へ
/330ページ
次へ
「……意外と言うか……物凄くイイ奴なんだな、オマエ」 「意味わかんねー! 何で嬉しそうなんだよ、キモチわりー!」  彼の右手を引っこ抜く勢いでぎゅううと掴み、少年はぼふっと赤い顔で彼を見上げる。その姿に彼は、不思議なほどに心が安らぐ。  そのまま穏やかな苦笑――彼には珍しいくだけた表情で、少年の問いかけに答を伝えた。 「できれば殺したくはないが……有り得ないとは、正直言えない」 「……それならオレはダメ。悪いけど他を当たってよ」  少年もそれはわかっていたのか、申し訳なさそうな声色ではっきり返答する。  「力」あるものなら、誰もが抱えるその可能性。何らかの争いに巻き込まれ易いだけでなく、幼い頃の彼のように、自らの「力」に呑まれる危険性……そうした現実を考えれば、彼の返事は誠実だろう。 「じゃあせめて、今の手がもう少しだけちゃんと動くように調整できないか?」 「うーん。でもこれ、兄ちゃんが言うほどには壊れてないけどな?」  彼の成長に合わせる仕様であることで、確かに強度は落ちて傷むだろうと、ぺたぺたと義手を触りながら少年が言う。しかし上手く動かないのはおかしいと不可解そうにする。  そして、ぽつりと―― 「……これ……――の仕事だ……」  その単純な造りと、精密さを併せ持った便利な義手に、少年は更に表情を暗くしていた。 「――?」  その後少年が喋らないので、とりあえず手を離して歩みを再開する。 「この紋様だけでも消す、というかアフィに返したいんだが、それも無理そうか?」  先日にそこに刻まれてしまった青黒い蛇について、彼は最後の質問をする。  そこで顔を上げた少年の返事は、驚くほど早く、そして怪訝そうだった。 「多分無理。オレもこんなの初めて見たけど、いったい何処でこんな呪い受けたのさ?」 「――へ?」 「よくわかんねーけど、怨念とかそういう類の気配だよ、コレ。悪い夢とか見てない?」 「……――……」  そう言われれば、最近の夢見の悪さは覚えがあったものの。それならもう少し前から、昨夜のような悪夢を見てもおかしくないように彼は思った。 「これはアフィを守るものみたいだし――悪い感じはしないけどな?」  むしろとばかり平然と言う彼に、納得いかなさげに首を傾げる、多感な少年だった。
/330ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加