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都市長の屋敷の裏側につき、林に面した塀を見上げる。隣の少年が不意に、外套を脱いで地面に敷き、その上に粉薬らしき包みをいくつも広げ出した。
「一応人除けの結界はしてるけど、万一誰か来たら、にーちゃんが気絶させてね」
「……オマエはこれから何をするんだ?」
「この屋敷の結界除けを造んの。思ったより凄く高度な結界を張ってるや……侵入したらそれだけで、操り人形にされかねないくらい」
え……。絶句する彼に、少年も座ってゴーグルを装着し、塀越しに屋敷をじいっと見上げ――難しい顔をして悪態をつき始めた。
「意味わかんねー。何この構成バカじゃねーの? どーやったらこんな無秩序になんだよ」
そのくせ秩序だって機能してんじゃねー! などと少年が、両手で頭を抱える。
「…………」
彼は何気なく、その……彼に視えていた単純な光景を、思わず口にしていた。
「ここを包む『力』なら、この粉とこっちの粉の色が近いと思うぞ」
「え?」
「多分だが、純度の高い『水』と色々混ざる『水源』が交互に折り重なってる。どっちも水だからややこしく感じるかもしれないが、用途別に分けられていそうな――」
ええええ!? と、そこで少年が上げた大声に、彼の言葉の続きは封じ込まれていた。
「この結界――視えてんの!? にーちゃん!」
「……オマエもそのメガネで、視えてるんだろ?」
「これはオレが感じた気配を視覚化してるだけ! それだってオレのレベルの気配探知ができてやっとなの! にーちゃんめちゃくちゃ、気配とか鈍そうじゃん!」
オレが横に寝ても気付かなかったし! と、彼に言われた薬包を取りながらも、少年はまだ半信半疑そうだった。
「直接危なくないものの色は、気にしないクセがついてるんだ。里だって結界だらけだし、それにこの色……オマエの結界にちょっと似てるぞ?」
しかし彼のその言葉に、ぴたりと――不意をつかれたように少年が黙ってしまった。
「オマエの結界の方がずっと自然だし、オマエが何か造ってくれるなら、見つからないでいけるんじゃないか」
彼としては、それを言いたかっただけなのだが……。
その後少年は、黙々と粉同士の調合を始め、顔付きは一言で表せば不快そのものだった。
「……?」
彼は少年が言った通り、見張りに徹する。辺りが夜に包まれる中、少年の作業を見守ることしかできなかった。
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