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やがて少年は、ゴーグルを着けたまま、彼と自身にその場で造った粉薬を振りかけた。
「やばくなったらお互い、自分を優先して自力で逃げることだよ」
「…………」
彼には不服な約束を口にする。その直後、塀を飛び越え、彼らは侵入を果たしていた。
裏庭らしき場所に着地した途端、彼に走った感情は、戦慄と言っても良かった。
「何だここ――化け物の気配だらけじゃないか」
「ホントだね。都市長は完全に人間なのに……」
「タツクもいるな……アイツ、ピンピンしてるのに何で出てこないんだ?」
身を低くして近付く屋内からは、慣れ親しんだ強い気配がありありと届く。結界の内ではそれは全く、隠されていないようだった。
「とりあえずにーちゃんのいる所に行こう。話はそれからだ」
何がそれからなのか、この時には彼は、少年の様子のおかしさに気付けなかった。
侵入した彼らが気付かれず、少年の結界除けが見事に機能しているはずの中で、未だにゴーグルを外さない少年には違和感を持ち始めていた。
しかしその感じに言及する暇もなく――その想定外の事態は訪れてしまう。
「……――って、何だ……!?」
「これは――まさか、オレ達以外にも侵入者!?」
突然屋敷中にけたたましい警報が鳴り響く。彼らのいる裏口ではなく、正門に近い方で、結界の色が黒く変色したように彼には見えた。
しかもその方向には、まさに……――
「何やってんだ、アシュー……!?」
「ってコレ、やっぱりねーちゃんの気配かよ!?」
少年もすっかり、ゴーグルの下でもわかるほどの大きな鋭い目を丸くする。
「何か嫌な予感はしたんだよオレ! あのねーちゃんが黙って待ってるはずないって!」
残留待機と決まった女性陣に、それで良いのかときいた少年の懸念を彼はやっと悟る。
ひとまず建物の内に何とか入りつつ、彼と少年は並んで頭を悩ませることとなった。
「多分、囮になるつもりなんだよ。危ない時は自分一人なら、いつでも逃げれるって前に言ってたし」
「それは確かだが、だからってこんな派手に――敵地に乗り込んだりするか、あいつ!?」
「にーちゃんはねーちゃんのこと、どんな風に見てるのさ?」
どんなって……と、彼は咄嗟に、その霊獣が見つけた幼馴染みの様子を探る。気配を探知した時点でその居場所へ向かわせた、透明な飛び犬が見る光景に集中力をずらす。
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