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結界に引っかかるのを承知で、大きな木の上から屋敷に飛び込んだ幼馴染みは、入った途端に自身を襲った結界の力に、慌てながら物陰に身を隠していた。
「うわ、これやば、やっぱりアフィちゃん置いてきて正解だ……!」
どうやら逃亡用の安全地帯に、自身の大猫と空色の流人の彼女を待たせているらしい。彼女にはその場所の安全確保が必要と、言い含めでもしたのだろう。
「どうしよどうしよー! このぐらいじゃ洗脳なんてないけど、こんな結界張ってる所、ヤバ過ぎるって……!」
心底焦り、きょろきょろ周囲を窺う姿は、弱い侵入者なら骨抜きにする結界に侵されることもなさそうだ。
そのわりには、ただひたすらに……どの程度その場で頑張り、騒ぎを起こすか、逃げるタイミングを悩むばかりの小心な侵入者だった。
「……それなら来るな、バカ」
ずしんとする頭を抱え、俯きながら彼は視界を本体に戻す。最後の光景は、彼の飛び犬に幼馴染みが気付き、その応援に安堵しつつ、ごめーんと泣き笑いで謝る姿だった。
しかし少年は、彼の率直な感想に僅かに眉をひそめる。
「それだけ怖くても、来ずにいられないヒトなんだよ、ねーちゃんって」
少し前に、共に山賊と一悶着あったという少年と幼馴染み。その関わりを示すように、少年は苦い声色で……ともすれば、彼らより幼馴染みの内面を感じているようだ。足音を潜めて階段を昇りながら、背中越しに口にしていた。
「タツクが心配なのはわかるが……それなら初めから俺達と来ればいいだろ?」
もしくはせめて、事前に相談しておいてほしいと彼はぶつくさ呟く。
「来るって言ったら、にーちゃんは連れて来てた?」
振り返りもせず淡々と言う少年に、ぐうと言葉を詰まらせて、そして納得した。
「……そうだな。だからあいつは、言わないで来たのか」
「オレの時もそうだよ。オレ一人で大丈夫って言ったのに、結局後をつけてきて……おかげでオレ、殺されずに済んだんだけど」
「……?」
「まさかあの時、ずっとガクガクしてたねーちゃんがくるとは思わなかった。あのさ……アシュリンのねーちゃんって、キレると別人にならない?」
不意に立ち止り、振り返って彼を見ながら、少年は何処か痛ましげに尋ねた。
「人質をとられたとはいえ、オレを殺せそうだった奴、ねーちゃんはその時……無表情にたった一撃で、ノックアウトしちゃったんだよ」
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