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プロローグ
物心ついた頃から、誰も傷付けずに生きられたらいいと思っていた。
それは綺麗事だ。化け物の力を持って生まれ、武器を持つ以上、戦いは避けられない事。
それが嫌なら人間のように、弱く狩られる立場にならなければいけない。
少なくとも剣など取ってはいけない。でもオレは、生まれた時から赤まみれだった。
前世なんてどうでもいいけど……きっと俺は、悪いことをしたんだ。
「オレ……ここにいない方が、よかったんだ――……」
五歳になる少し前の事だった。馴染みの悪ガキ三人で大人の目を盗み、初めて遠出した。
神聖な何処かの泉に迷い込んだと、気付いた時には後の祭りで。
「ごめんなさい……! あたし、ごめんなさい――……!」
きっとその時、オレは全ての穢れを知った。
あいつの泣き声を昏い水の中で聴いて、やっと少しだけ、赤まみれだった自分をキレイにできる気がした。
そして俺は、オレを置き去りにしたんだ。
幾度も繰り返すさだめ、兇獣の赤い腕と共に――
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Cry per A. ―arrestare―
千族化け物譚 C1上篇 『紫苑の少年』
~Wizard Aster~
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