第1章

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私は呪いの市松人形。  私達の存在は、すでに広く世間に知れ渡っているので説明は不用かとも思うが、私は呪いの人形界でも一二を争うほど非常に律儀な呪いの市松人形なので、念のため簡単に説明をしておこう。  そもそも市松人形とは着せ替え人形の一種で、身長は二十センチほどの小さいものから、一メートル以上ある大きなものまでいる。  私は一メートル二十センチもある市松人形と出会ったことまである(この話を聞いて驚かないものは人形界にはいない)。  しかしまあ大きければ良いというものでもない。私の身長は八十センチだが、人間の子供のふりも出来、かつ人に見つからないように動いたり隠れたりするのに適しているので、仕事もやりやすくそんな自分の身長を気に入っている。  さて、もっと私がどれほど市松人形として優れているのか語りたいところではあるが、本題から少し話がずれているような気がするうえに、すべてを語りつくそうと思うと丸一日かかることは必至なのでここらで切り上げて、市松人形の簡単な説明に戻るとしよう。  市松人形には、男の子型と女の子型が存在する(ちなみに私は言うまでもなく女の子型だ)。その市松人形に魂や怨念が入ったものが、一般的に「呪いの市松人形」と呼ばれているのだ。一言で言えば、人形なのに髪が伸びるというあれである。  一応勘違いの無い様に言っておくが、呪いの市松人形すべてが髪を伸ばすことが出来たり、上下左右自在にぎょろぎょろと目を動かせたりできるというわけではない。  中には魂が入っているだけで本職の呪いはおろか何も出来ないので、日がな一日おしゃべりで時間をつぶすといったものもいる。肩書きだけ「呪いの市松人形」というわけだ。  しかし嘆かわしいことに、そういった者たちのほうが圧倒的に多い。私が生まれたばかりはそうではなかったが、今では呪いや特殊な力が使える市松人形のほうが珍しい。  私はというと、もちろん呪いは得意中の得意であるし、特殊能力もある。まあベテランの私だから、それぐらいは当然のことだ。  さあ市松人形の説明も終わったところで、皆さんも期待が抑えきれなくなっていることだろう。ここいらで実演、つまり特殊能力の披露に移りたいところなのだが、ベテランになればなるほどそうやすやすと仕事以外で手の内をさらさないもの。いや、披露したい気持ちは十二分にあるのだが、披露することができないのだ。
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