2人が本棚に入れています
本棚に追加
そう、何を隠そう少し前に見せられないといっていた特殊能力とはこのこと。私は髪の毛の艶を、浮浪者のようなバサバサな髪から女優のような艶髪まで、自在に操ることが出来るのだ。
私はこの能力を陰ながら駆使することで、毎年の夏に呪いの市松人形の間でだけで行われる、「髪の艶選手権」で十年連続優勝している。
同時期に行われる「髪の伸ばせる長さ選手権」では、いつも予選落ちだが、髪の艶の方に集中して能力開発の努力をしたのだからしょうがない、それどころかむしろ名誉とさえ思っている。どのようにして操るのかは企業秘密なので見せられないが、私の能力のすごさは十分伝わったことと思う。
言うまでもないが私がこの様にすばらしい能力を持っていることも秘密なので、他言無用でお願いする。
ついつい熱弁してしまったが、以上の理由から、くれぐれも他の人形達とは一緒にしないでほしい。特に、テレビに映るまがい物などとは絶対に。
ああ、まがい物の話をしていたからだろうか、昨日遭遇したまがい物よりもさらに許せないものの姿が頭をよぎる。
そのものの説明をする事は私の精神を激しく消耗することになるのだが、ここで説明しなければ皆さんの中にモヤモヤとした感情が残るであろうし、何よりも今の呪いの人形界がどれほど嘆かわしく由々しい事態になっているのかを、真には理解してもらえないであろう。少し時間がかかるやもしれないが、こちらも覚悟して話すので最後までお付き合い願いたい。
そう、あれと遭遇したのは昨日の昼のことだった。
六十年と言えば呪いの市松人形として、はもうとっくに引退してもおかしくない歳。しかし呪いを一生の仕事と決めている私は、その日も情報収集のため町の本屋にやってきていた。週刊誌を読み人間達の世界の様子でも知ろうと、雑誌コーナーに足を運んだのだ。しかしそのコーナーに一足先に来ていたのが、先程から声を大にして言っている私の大嫌いなものだった。
「あっれ?? おばはんじゃん、何してんの」
「……情報収集に決まっている。後その呼び方はやめろと、常々言っているだろう」
そう、言いたくはないが先程から「あれ」と表現していたのは私の同業者だ。
最初のコメントを投稿しよう!