第1章

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 同業者と言っても、あれは生まれてからまだ二十数年しかたっていない新参者。それに私はあれを同業者だとは認めていない。何故と聞かれれば理由は色々あるが、最大の理由はあれが「呪いの市松人形」という意識を持っていないということだ。能力があるのにそれを使おうとせず、むしろ人間に溶け込もうとさえしている。呪いの市松人形の片隅にも置けない奴だ。 「またそのような服装で町をうろつきおって。呪いの人形界の恥さらしが」 「公衆の面前でそういう言葉使っていいんですか?? それに私はこの服が気に入ってるんで、ほっといてもらえます?? てか、突っかかってこないで」  同業者だと認められない理由その二。服装だ。私は洗濯して清潔さを保ちこそすれ、この着物を六十年着続けている。この着物を気に入っているということももちろんあるが、呪いの人形と着物は相方のようなもので、服を変えれば力が落ちると言われるほどなのだ。  なのにあれときたら「オシャレ」や「女子として当然の身だしなみ」とか言いながら、日によって服装を変える。今着ているものも、この間会った時のものとは違う。  この間あったときは黒地に金の蝶々が舞った派手で気味の悪い着物だったが、今日は派手な紫の地に派手な桃色の花がちりばめられているという、目にいたい着物を身に着けている。これを本当に着物と呼べるのか、否。  それにさらに派手な化粧まで。髪の毛など私のような美しい黒は見る影も無く、異国人のように金色に染まっているのだ。このような存在が目の前にあって、許していられようか。 「待て、どこに行く」 「いや?、立ち読みにも飽きたし、先輩も来たし場所を譲ろうかな?と」 「まだ話は終わっていない。まず呪いの市松人形というものは……あ、こら待て逃げるな!」  会うたびに説教をしているのだが、必ず途中で逃げられてしまう。その日も途中までは走って追いかけたのだが、まんまと逃げられてしまった。  さて、分かっていただけただろうか私のこの苦悩。最近まで蔵の中で寝ていたせいで、人間達の世界の情勢に疎くなっていたのはしょうがないので、これから取り返すとして問題は呪いの人形界だ。  私が寝ていた間にここまで様変わりしているとは、正直想定外で驚いている。これは何とかしないといけないと思っているのだが、ここまで末期だとどうすればいいものか。
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