第1章

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 とりあえず日も暮れてきたことだし、今日は止まる宿を探しつつ作戦を練ろう。宿探しは(私にかかれば)そこまで大変な作業ではない。そう言っているうちに、ほら見つかった。私の大きさに合わせたちょうどいい寝床。中に先住民がいないことを確認して中に入る。昨日は中に先住民がいてふんだりけったりだった。あれをパートナーにしている人間の気持ちがよく分からん。大人しい奴はまだいいが、最悪なのは私に興味を持って舐めてきたりじゃれてきたりする奴だ。昨日は警戒心の強い奴で、危うく噛み付かれそうになったところ何とか回避した。  もう夜もふけたし、この宿で横になろう。と、その前に。この宿に染み付いた奴のにおいを除去しなければ。人間は本当に便利なものを開発する。このファブなんとかという消臭剤を散布すれば、たちどころに臭いが消えて後にはいい花の香りだけが残るのだ。この中には花の蜜か何かでも入っているのだろうか。私はそんなことを思いながら目を閉じた。  私の一日はおぐし直しから始まる。人間と違い寝返りなど打たないので、髪が乱れることはまず無いのだが、これをしないと落ち着かないのだ。  髪も完璧に整ったことだし、昨日考えた作戦を発表しよう。作戦名は「ドキ☆いつの間にか人形界の星作戦」だ。私は自分で言うのもなんだが、呪いの市松人形界ではかなりのベテランだ。前もその話は聞いたという文句は受け付けない。「一日一呪い」を抱負とし、数え切れないほどの人間を恐怖のどん底に落としてきた。そんな私が、人間達がたくさん集まる中心街で呪いを行えば、必ずテレビに取り上げられ映画一本は確実に撮られる。そうすれば人間達も、今まで見てきたもの達がいかにまがい物であったお瞬時に悟り、本物の呪いの市松人形とは何たるかを思い知らされる事になるであろう。そしてそんな人間達の反応と私という輝かしい星の姿を見た人形達は、自分たちがどれほど愚かであったのかを悟るのだ。  そう、私は決して「テレビに出たい」だの「脚光を浴びてもてはやされたい」だのという浮ついた私利私欲のためではなく、全呪いの市松人形のため全呪いの市松人形の代表としてテレビに出ようというわけである。
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