消費増税殺人事件

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124,013,000… 平成26年度に新規発行された1円玉の枚数である。 消費税は5%から8%に増税、日本全国で1円玉の需要が高まったこの年。 T県の高級別荘地の地下室で、財務省幹部の死体が発見された。 先に到着した鑑識係が現場保存と記録に忙しい中、T県警捜査一課が到着した。 「消費増税に反対する過激派の犯行でしょうか?」 「三猿渡、お前は推理もの専門チャンネルの見すぎだ…」 キラキラと好奇心に満ちた眼差しを向けた若手の巡査に、T県警のうでっこき、猫田甚五郎巡査部長は、床一面どころか地下室の深さ半分を埋め尽くすアルミニウム片を一掴みした。 一円玉である。 「…鑑識、一円玉の分析を急げ」 「エッ、まじっスか?」 「そうだ。一円玉の発行年、枚数、真贋、全て調べるんだ」 鑑識は、遠い目になった。 三猿渡巡査が、ジャリジャリと一円玉の海を渡って行こうとしたとき、 「うっ」 「猫田さん?」 三猿渡が振り向くと、猫田は地下室入りがけの階段に座り込み、うつむいていた。 『私の推理が正しければ、この一円玉は… 被害者が一人で集めたものだ』 「エエッ?」 三猿渡は衝撃を受けた。 「はっ、これはまさか…眠りの甚五郎…」 猫田の声がやや右、後ろを向いている鑑識官のあたりから聞こえていることは全く気づかない。 鑑識のカメラが不自然に陥没していることも気づかない。 『この部屋の寸法、床から天井の高さ… 目算だが全て一円玉とすれば一億円ほどある筈だ』 「そ、そうか、被害者は、最近起こった大物政治家の献金事件のキーマン! 一億円ぐらい、容易に手に入りますね」 『違うな、三猿渡くん。ここ数年、一円玉の発行枚数は精々数百万枚。 平成26年度のみ、数年ぶりに1億2千万枚超だ。 銀行で両替しても手にはいる筈がない』 「と言うことは…」 『そうだ、被害者が長年かけて収拾した以外にあるまい。 という訳で、ガイシャの親族、友人に聞き込み裏付けをとってくれたまえ、三猿渡』 三猿渡ら捜査係の努力により、猫田の推理は証明され、被害者の妻と浮気相手の男が逮捕された。 一億円の資産がありながら、財テクするわけでもなく、高額な別荘の一室を趣味の一円玉コレクションで占拠し、妻子には質素な暮らしを強要する吝嗇に、妻の深い恨みを買っていた。 趣味はホドホドに… 心に誓う捜査一課の面々であった。(了)
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