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「京香?」
名前を呼ばれてハッとした。
先日の甘い夜を反芻している自分がなんだか恥ずかしくなって、私は曖昧に笑みを返す。
「どうした? 急に可愛い顔して」
「……また、からかって」
「本音だよ」
くすぐるように私に届く声は優しくて、甘やかすみたい。
単純な言葉で簡単に喜んでしまう私は馬鹿みたいだけれど、悪くないと思える。
「ねえ、雅広さん?」
「ん?」
「私、頑張るわ。そしてとびきり、いい女になってみせるから」
「今より? それは大変だ。俺もうかうかしてられないな」
冗談混じりの決意表明に、彼は私の手を取り、甲に口付けた。
あの時と同じ仕草だ、と気づきながら私はそれを受け入れる。
応援してくれているのか、何なのか。
特別な関係になっても、まだまだ読めないひとだ。
でも、それでいいと思える。
この人との間に不安が入り込む隙間はないから。
二人で笑い合うこの時間が、奇跡みたいに幸せだから。
私のプライドは、一度折れて、腐りかけて……
それでも支えを得て、再び莟をつけた。
愛を得て、自信を得て、希望を得て……
そしていつか、大輪の花を咲かせる予感を秘めている。
end.
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