宝くじ

家賃から解放されただけで、
別段何かがあるわけでもなく。
いまはいいが、
先々のためにも貯金は増やしておくに
こしたことはない。
いままで通りの生活をし、
浮いた家賃を貯蓄に回した。

……いや。
いままで通りの生活、
と思っていたのは私たちだけかもしれない。

……かなり貯金もできたし、
生活にも多少の余裕が。

そういう気の緩みが
なかったかと云えば嘘になる。

流石に高額なものを
ぽんと買ったりはしなかったが、
普段なら家で食べるところを食事に出たり。
その食事もいつもよりも
少しだけいいところにいったり。

……そういう、自分たちでも気付かない、
小さな変化。
でも、そういうことに気が付く、
あざとい人間はどこにでもいるのだ。

「ねえ。ちょっと、お茶していかない？」

その日のパート帰り。
声を掛けてきたのは
以前一緒のマンションに住んでいた、奥さん。